一度きりの人生、自分が心躍る場所で暮らしたい。そう願う人も多いのではないでしょうか。日本には、まだ知らぬ素晴らしい場所がたくさんあります。地域が変われば、気候も文化も生活スタイルも全く違う。生活環境を変えるということは生き方そのものを変えることにつながります。
地方移住には、都会暮らしにはない魅力が多くあります。美しい海や山、川などの自然に密着した生活ができること、人混みや喧騒から離れ静かに暮らせること、家賃を抑えながら家が広くなったり庭や畑がついたりと住環境が快適になること、子育て支援や環境が充実している可能性が高いこと、また新鮮でおいしい食べ物が安く手に入ること、人と人との関わりが深く、支え合いながら生活できること。とくに、アウトドアが好きな人にとっては、大自然の中で趣味を堪能できるため、より心豊かに暮らすことができるでしょう。
ある調査によれば、20代〜50代の東京圏在住者のうち、半数の49.8%の人が地方ぐらしに関心を持っていることがわかっています。また、地方県出身者のほうが東京県出身者よりも地方ぐらしに関心が高いこと、さらに、年代で見ると若者のほうがより高い関心を持っているという結果となりました。
一方で、実際には地方移住がなかなか進まない原因として挙げられるのは、「仕事がない」「収入が減る」ことです。
少し前となりますが、移住・交流推進機構(JOIN)が2017年に「若者の移住調査」を行いました。「地方への移住を大きく妨げている原因はなにか」という質問に対し、最も多かったのが「移住先では求める給与水準にない」といった回答でした。
他にも「移住先では専門性を活かせない」などを含めた、仕事が原因で移住ができないと考えている人の割合は、合計48.4%に上りました。
逆に言うと、仕事や収入の不安がなくなれば、移住を妨げる要因の半分は解決できるのかもしれません。
たしかに、地方は都会と違って求人そのものが少なく、やりたいと思える仕事が見つからない、あったとしても収入が低すぎる、良い条件の仕事は倍率が高くなかなか採用されない、といった声はよく聞きます。
移住者が、田舎で必要な収入を得ながら生活することは本当に難しいのでしょうか。
そんなことはありません。田舎でも、工夫すればお金を稼ぐ方法はいくらでもあります。
家賃などの生活コストを抑えながら、自分の好きなことで必要十分な収入を得ていく、この2つのサイクルを回すことができれば、生活の土台は自ずと整ってゆくでしょう。
この記事では、「稼げない」イメージのある田舎でも、生活に必要な費用をしっかり「稼ぐ」方法を5つ紹介します。
目次
移住先で稼ぐことの意義
仕事や収入がなければ生活が立ち行かなくなるので、稼がないといけないのは当たり前でしょう、と思われるかもしれません。もちろん生活の糧を得るための仕事は重要です。
ただ移住先で稼ぐことには、実はほかの意味もあります。それは「自分への投資」です。
とくに、まだ若い20代〜40代にとって「人生100年時代」といわれる現代では、移住後の人生のほうが長いでしょう。
短期的な「今」の収入はもちろん大事ですが、その先続く「未来」の収入も踏まえて、スキルと経験を積み重ねていく必要があります。
田舎で稼ぐことができるのであれば、どこでも生きていくことができます。この田舎暮らしで、「どこでも稼げる」スキルと経験を身に着けることができれば、大きな強みとなることは間違いありません。
これは田舎で暮らすために必要なだけでなく、自分の市場価値を上げ、今後のキャリアアップにつながる大きな一歩となります。
また、その土地で稼げる移住者が増えることは、移住先地域にとっても価値があります。
総務省によれば、税収の増加や仕事や雇用の創出、消費の増加などにより、移住者一人あたり年間250万円前後の経済効果が見込まれるということです。
つまり、移住先地域にとっても、移住者の「稼ぐ力」を伸ばしていくことは重要な課題となります。
田舎でお金を稼ぐ5つの方法
とはいえ、実際に田舎でお金を稼ごうと思っても何をしたら良いのかわからない・・・という人も多いでしょう。具体的にどのような仕事があるのか見ていきましょう。
② 地元企業/行政機関への就職
③ 地域振興や観光業に携わる
④ リモートワークを継続/リモートワークの仕事に転職
⑤ 在宅でできる個人事業を行う
① その地域の特性を活かした仕事
田舎に移住したなら、その大自然に囲まれた環境を活かして、農業、漁業、林業など新たなフィールドで挑戦したいという人は多いはず。
田舎移住をしたいと思った理由が、豊かな自然環境の中で暮らすためということなら、都会のようなオフィスワークではなく、自然と近い距離で仕事ができるのは田舎生活の醍醐味かもしれません。
農業の場合、専業農家として従事する方法もありますが、最近増えているのは「半農半X」といわれるライフスタイルです。半農とは、半分の労力で行える小さな農業のことで、自分や家族が食べる分の食料をまかない、残りの時間や労力は自分のやりたいことである「X」につぎこむ、というものです。
また、このような地域の特性を活かした仕事は、国や自治体のサポートが手厚いのも特徴です。
とくに新規就農は充実したサポート体制でネットで「就農支援」と検索すると、多くの情報が出てきます。たとえば、島根県の飯南町には「農業研修制度」があります。
2年間、毎月15万円の収入をもらいながら農業の技術や知識を学び、自営就農を目指す制度で、農業に関する知識や経験がなくても、はじめることができます。
また、農業そのものに従事しなくても、農家と提携して農産物や特産物をネット販売することで貢献するビジネスもあります。
同様に林業も、林野庁を中心に「緑の雇用」という新規就業者を増やす事業を進めています。取り組みの効果も表れており、事業開始前は新規就業者が年間約2000人だったのに対し、現在では年間約3200人と160%の増加率を見せています。
手厚いサポートの背景には、第一次産業における働き手の高齢化や少子化、都市部への人口流出に伴い、若い労働力が圧倒的に不足していることが挙げられます。外国人技能実習生が頼みの綱、という地方も少なくありません。
しかし、農業、漁業、林業は、人々が暮らしていくために大変重要な産業であり、機能しなくなってしまうと、たちまち、わたしたちの生活は立ち行かなくなってしまうでしょう。
最近では、第一次産業にもテクノロジーの波が押し寄せ、人手不足を解消するため、様々な作業の効率化や簡易化が行われており、「稼げる」人たちも増えてきています。
未経験であっても支援制度をうまく活用して学びながら働き、その土地ならではの仕事を通して地域に根付いた生活を送れるのは、大きな魅力といえます。
② 地元企業/行政機関への就職
地方は仕事がない、とよくいわれますが、実のところ人手不足は深刻化しています。
田舎の仕事と聞くと、漁業や農業などの第一次産業がイメージされますが、製造業(メーカー含む)や建設業といった第二次産業の仕事も一定数あります。
ただ都会の仕事と違って、地元企業の求人は転職サイトなどのインターネット上には掲載されていないことも多いので、現在の居住地では情報収集がしづらいかもしれません。
事前に現地にも足を運び、ハローワークや役所の移住者向け就職相談なども併せて活用すると良いでしょう。数は多くないですが、UIターン専門の転職エージェントに相談する方法もあります。
また、移住先の自治体で職員として働くというのも一つの選択肢です。しかし、雇用や収入が安定しており地域住民の間でも人気があること、また募集人数もそう多くはないことから、狭き門となります。
契約職員など非正規職種から入り、正規採用を目指すということもできるので、興味がある場合は念入りに準備を重ねて挑戦しましょう。
③ 地域振興や観光業に携わる
田舎にはまだまだ発掘されていない魅力があります。観光地として栄えている地域もあれば、豊富な資源や素材はあるのにそれがPRされないまま、中々人が集まってこない地域も多くあります。
しかし、地元の人たちが当たり前のように使っているもの、食べているもの、また豊かな自然の恵みには大きな観光資源が隠れているかもしれません。
仕事内容としては、地域の特産品の販売やPR、宿泊施設や飲食業の運営、インバウンドの呼び込みや現地での対応などが挙げられます。
とくに、新型コロナウィルスの影響も落ち着き、多くの外国人観光客が押し寄せている現在では、インバウンド需要は高まっています。
東京や大阪など都心部では、言語対応や文化への配慮など、コミュニケーションがスムーズになりつつあります。
一方、地方では、外国人と触れる経験が不足していたり、外国人観光客にどのように対応したら良いのかわからない、という声も多いため、一定の需要があるでしょう。
現在多くの自治体で活用している「地域おこし協力隊」として活動するのも一つです。地域おこし協力隊とは、人口減少や高齢化が進行する地方に住みながら、地域振興のために活動するプログラムです。
地場産品の開発や販売、地域の魅力発信、空き店舗活用による商店街の活性化や地域行事の応援、さらに移住支援などを行い、観光に関わる案件も多くあります。
1〜3年間の任期で、期間中は住居や車のサポートも受けられるので、移住後すぐから、職・住まい・移動手段が整うのは、生活の基盤を築く上で大きなメリットです。
全体的に観光業での仕事は、自分がお金を稼ぎながら、うまくいけば地域活性化にも貢献できる、魅力ある仕事だといえるでしょう。
④ リモートワークを継続/リモートワークの仕事に転職
移住したからといって、必ずしも現地で仕事を探す必要はありません。今の仕事をリモートワークで継続する、もしくはリモートワーク可の会社に転職する、という方法もあります。
職種にもよりますが、コロナ禍以降、「勤務地は全国どこでもOK」といったフルリモート可の会社も増えてきたので、探してみると良いでしょう。
企業からしても、従来は会社から通勤圏内の人しか採用できなかったのに対し、全国または海外からも優秀な人材を獲得できる、という点にメリットがあります。
しかし、リモートワークの一番の難点は「コミュニケーション不足」に陥ってしまう可能性が高いこと。仕事は、メンバー間のコミュニケーションで成り立っているといっても過言ではなく、中途採用でフルリモートの職場に入り込むのは、かなりの対人スキルが求められるでしょう。
オフィスであれば、疑問点やちょっとした相談があるときに、さっと隣の人に聞いたり、ランチを一緒に取ることで親交を深めたりといったことが可能ですが、フルリモートの場合はそれらができなくなります。
フルリモートの会社に転職する場合は、事前に普段のコミュニケーションをどのように取っているのか、また相談がある場合の対応方法などについて聞いておくと安心でしょう。
対策として、定期的に上司とオンライン面談をしたり、進捗状況や相談事をこまめにチャットで報告したりなどの工夫が、こちらにも必要です。
また、コミュニケーションの面で心配があるなら、サテライトオフィス勤務や出勤、リモートも可という働き方の選択肢が多い会社を選ぶのも一つです。
まずは移住前の数ヶ月〜1年は出勤をしてメンバーとの信頼関係を築いておき、移住後にフルリモートに切り替える、といった方法も検討できます。
リモートワークの場合、「出勤時間がゼロ」「柔軟な働き方ができる」といった良さだけでなく、都会の方が地方より給与面も優遇されていることもメリットなので、検討する余地は十分あるといえます。
⑤ 在宅でできる個人事業を行う
今は便利な時代で、ネット環境さえあれば全国どころか海外でも仕事ができる時代となりました。
在宅でできる個人事業は、4で挙げたリモートワークと似ている部分もありますが、大きく違うのは「雇われない」働き方であること。働く時間や場所、誰と仕事をするのか、など全てにおいて自由度が高い分、会社や組織の名前を借りずに、自分の力で仕事を獲得し、成果を出す覚悟が求められます。
在宅でできる個人事業にどのような仕事があるか、一例を挙げてみます。
ブログ・アフェリエイト
ブログの記事を書き、企業の広告やサービスを紹介することで報酬を得る
せどり
商品を安く仕入れてメルカリやAmazon、楽天などで仕入れ値より高く売り、価格差を利益として得る
Webデザイナー
Webサイトの文字やレイアウトをデザインし、使いやすく、美しい見た目に整える
SNS運用代行
企業やお店に代わって、SNSの投稿や運用の分析をするなどマーケティング業務を行う
Webライター
インターネット上に掲載される記事や文章を執筆する
動画編集
商品やサービスのPR動画の作成や、Youtube動画の編集作業を行う
オンライン秘書
スケジュール管理やアポイント代行などの一般的な秘書業務から経理、Web関連業務まで多岐にわたる
オンライン秘書やWebライター、動画編集などは、「クラウドワークス」や「ランサーズ」「ココナラ」などのクラウドソーシングサイトで、案件に応募して受注するのが一般的な流れです。
一方、ブログやせどりは自分一人で始めることができますが、報酬を得るまでに、地道な努力と長い時間を要することが多いです。
得意なことは人によって違うため、自分の特性にマッチする仕事を見つけるまでは、一つに絞らず、可能性があるものや興味をもったものにはどんどんチャレンジしていくことをおすすめします。
おすすめしたいのは、これまで紹介した1〜4の仕事と、5の個人事業をかけ合わせた働き方「パラレルワーク」です。1〜4で安定した収入を得つつ、個人事業に取り組むことで、プラスアルファの収入を得ることができるうえに、どこに行っても通用する自分の「稼ぐ力」を向上させることができます。
たとえば、1で挙げた「半農半X」のXに個人事業を入れてみる。3で挙げた地域おこし協力隊として週3〜4日働きながら、空いた時間で個人事業に取り組む、といったイメージです。
とはいえ、移住先に馴染むだけでも大変なのに、最初から2つの仕事を掛け持ちするなんて、到底できる気がしないですよね。
移住前から副業などで個人事業をスタートさせ、移住後に備えるのもよし、移住後に地域に慣れながら、ゆっくり自分のペースで始めるのもよし、です。
環境の変化は、自分に合った働き方を選択できるチャンスでもあるので、この機会に「これからどう働いていきたいか」をじっくり考えてみると良いかもしれません。
田舎での起業支援制度
+αとして、移住先で起業に挑戦するという選択肢です。市場規模が小さいことやビジネスする上で人間関係を無視できないことなど、少しハードルは高いかもしれませんが、田舎での起業は首都圏より土地建物代や人件費などの開業経費を抑えられる傾向にあります。
また、競合も少なく、地域のニーズにうまく応えることができれば、稼げる可能性は十分にあります。さらに、移住先地域の課題を解決する事業や社会性の高い事業は、自治体の助成を受けることができます。「地方創生起業支援事業」という取り組みです。
地方創生起業支援事業
社会的事業の分野において、移住先地域の課題解決を目的として新たに起業する人、または法人に対して、起業に必要な経費のうち1/2の額が支給される事業です。
最大200万円の助成が出るため、田舎で本格的に事業を始めたいという人にとっては、大きな支援となるでしょう。
「社会的事業」とはどういったものを指すのでしょうか。基本的には各都道府県が地域の課題や実情を踏まえて設定するのですが、国が例としてあげているのは、以下のとおりです。
・まちづくりの推進
・過疎地域等活性化関連
・買物弱者支援
・地域交通支援
・社会教育関連
・子育て支援
・環境関連
・社会福祉関連
支援金支給までのプロセスや細かな条件については、自治体によって異なるため、自治体のHPを参照ください。例として内閣府が提示している支援金支給までの流れを紹介します。
起業支援金支給までの流れ
出典:内閣府・内閣府総合サイト「地方創生」より
他にも、全国の各自治体が独自で行っている移住・就職支援について詳しくまとめたものを<LINEご登録者限定>で配布しています。移住・定住に関する有益な情報を多数発信しているので、ご希望の方はぜひLINEにご登録ください。
まとめ
田舎移住を検討した人の多くが「田舎でどうやって稼ぐのか」という課題にぶつかります。働く=会社や組織に雇われる、というイメージを持ってしまいがちですが、実はそうではない働き方もたくさんあります。
昔のように、「一つの会社で定年まで勤め上げる」という人生安泰レールは敷かれていないので、自分の力でそのときどきに応じた生き方と働き方を選ぶ必要があります。
スキルとネット環境さえあればどこでも仕事ができるこの時代では、多様な働き方ができるようになり、「稼ぐ」という点においては、都会と田舎の格差は少しずつ小さくなってきたといえるでしょう。
移住後の人生も長く続いていきます。目先の収入だけでなく、今後のキャリアを見据えて、自分の価値を最大化できるフィールドはどこか、身に着けたいスキルはなにかを考えておく必要があります。
そして、「自分は何をしてお金を稼ぐと幸せに生きられるのか」、ということを理解したうえで仕事を選ぶことができれば、より働くこと、生きることが楽しくなるでしょう。