都会の喧騒から離れて田舎でのんびり暮らしたい・・・日々に疲れたとき、一度は頭をよぎったことがある人も多いのではないでしょうか。
しかし、地方移住は夢のはじまりではありません。
ネットで検索しても、
「地方移住 後悔」
「移住 やめとけ」
「移住 失敗」
などネガティブな言葉が並ぶこともしばしば。移住は人生を大きく変えうる選択となります。
とくに、家族を伴って移住する場合は、自分だけでなく家族の暮らしや生き方にも多大な影響を与えるでしょう。だからこそ、事前の準備が肝となります。
筆者自身が2年後に長野移住を予定しており、現在準備を進めているところです。その実体験に基づき、家族移住を成功させるための7ステップをご紹介します!
関西在住の30代会社員。夫・0歳の子どもと3人暮らしで、現在は夫婦でダブル育休を取得中。2年後に予定している長野県伊那市への移住に向け、現在準備を進めています。
目次
移住までのステップ
家族全員が納得できる移住となるように、どのようなステップで準備を進めると良いのか、くわしく見ていきましょう!
1. これからの生き方を考える
いきなり大きなテーマとなりましたが、まず自分がどんな人生を歩んでいきたいのかを考えます。移住はあくまで自分や家族が幸せに生きるための選択肢の一つであって、移住ありきで考えてしまうと目的を見失ってしまいます。
あなたは、誰とどんなところで何をして過ごしていたいですか?どんな暮らしをしていると幸せを感じられそうですか?言葉にしてノートに書き出してみましょう。考えた結果、今の暮らしのままがいい、となりうる可能性も十分ありますが、それはそれで大切な気づきです。
また、都会に拠点を残したまま、ある時期や週末だけ地方で生活する「二拠点生活」を選ぶ人もいるでしょう。
「どのように生きたいか」という目指したい方向に、「移住」という手段が合致するのであれば、移住をして何を実現したいのかを整理していきましょう。
この時点でインターネットを活用した情報収集はまだ早いです。ネット上には膨大な量の情報が飛び交っていますが、この「生き方」の部分はあなた自身の中にしか答えはありません。ネットに答えを求めてしまうと、あなた自身の考えなのか他人の考えなのかがあいまいになり、目的を見失いがちです。
まずは自分自身としっかり向き合うようにしたいですね。
このファーストステップを疎かにしてしまうと、どの山に登りたいのかわからないまま登山を始めるようなもので、いずれどこかで道に迷ってしまいます。
2. 家族に相談してすり合わせ
1で考えがまとまったら、整理した内容を家族に伝えます。ポイントは以下の3点です。
なぜ移住に興味があるのか
まずは「家族でこんな暮らしをしたいから、移住に興味がある」と、自分が移住に興味を持った理由や移住の目的を伝えます。筆者の場合は、唐突に夫に話すと驚かれるので、何回かに分けて少しずつ伝え、移住を真剣に検討していることをアピールしていきました。
冷静に、でも情熱的に、自分の本気度を見せるところです。
家族にとってはどんな良いことがあるのか
移住が与える家族への影響は大きく、それぞれの仕事や人間関係、学校、習い事など色々なものが変わるでしょう。環境が変わることでどんないいことがあるのか。
例えば、働き方を変えることで、今よりもっと家族の時間が取れるようになる、自然いっぱいの中で子どもをのびのび育てられる、少人数の環境で教育が受けられる、週末ごとに趣味のアウトドアを家族で楽しむことができる、といったものです。
今だけでなく将来的にどんなよさがありそうか、と未来視点で語ると良いでしょう。
移住をするデメリット
移住は、夢物語ではない「現実」の暮らしです。良いことだけでなく、移住することで失うものもあります。生活環境や学校環境が変わることで、パートナーや子どもにとって不安なことも多いでしょう。
よく移住すると生活費が抑えられると考える人がいますが、必ずしもそうではありません。家賃や駐車場は確かに安くなるかもしれませんが、気候条件やプロパンガスの利用などによって光熱費は高くなる傾向にあり、車も一人一台の所有が必須となる可能性が高いです。
車は持っているだけでガソリンや税金など諸々の費用がかかります。また、生鮮食品は地元の新鮮なものが安く手に入ることが多いですが、日用品は都会の方が安いことも。さらに、移住によって仕事が変わるとしたら今と同じ収入が得られるかどうかもわかりません。
このタイミングで家族を説得する必要はありません。あなたの考えを受け入れることはできなくても、一旦受け止めてもらえるように少しずつ思いを伝えていくことが大切です。
そして、家族にも反対意見も含めて考えがあるので、それにしっかりと耳を傾けましょう。その際、不安に思っていることは何か?移住に少しでも興味がありそうか?
自分が思いを伝えたとき、どの部分が家族に響いていたのか?を考えながら聞くようにしましょう。
3. 移住に関する条件をリストアップする
家族とのすりあわせができたら、いざ移住先を探すぞ!とスタートを切り出したくなりますが、もう少しステップが必要です。あなたや家族が移住に関して求める条件はなにかを、整理しましょう。
移住は旅行ではなく、暮らしそのものなので、「生活者」としての視点で条件を吟味していくことが重要です。例として、以下のポイントを元に条件を考えてみましょう。
移住先候補の条件
- 人口規模や市町村の区分など
- 気候条件や自然環境
- 住環境や交通環境(賃貸/購入、一戸建て/マンション、高速インターチェンジの有無)
- 就労のしやすさ(産業や働き口がありそうか)
- 子育て環境(教育環境、子育て支援施策)
- 便利さ(買い物や病院ができるところがあるか)
- 災害の多さ
- 現在の居住地からの距離(車で◯時間以内/日本全国どこでもなど)
- 移住定住支援の有無
地方移住を考えている人は、現在、都市部に住んでいることが多いと思いますが、移住先は人口規模も地域コミュニティの在り方も大きく異なります。思い切って村に飛び込むのか、まずは一定規模の地方都市からスタートさせ、慣れてきたタイミングでより自然豊かなところに移動するのか、など考えは様々あります。
また地域によって積雪の有無や暑さ、寒さ、日照率などの気候条件は大きく違い、暮らしを営んでいく上で外せないポイントです。移住する目的に、自然の豊かさを味わいながら暮らしたいという人も多いので、「海の近くがいい」「山が見える場所がいい」など自然環境についても考えます。
そして、日本は自然災害が多い国なので、気になる場合はそちらも考慮すると良いでしょう。
実家や友人などのコミュニティが現在の居住地にある場合、移住先があまりに離れてしまうと気軽に帰ることができなくなります。孫を両親に会わせたい、年に3回ほどは地元の友だちにも会いたい、なども書き出してみましょう。
上記の条件を箇条書きにしたら、それらをMUST条件、WANT条件に分けます。MUSTは譲れない必須条件、WANTはあればうれしいけどそこまで重視しない条件です。
MUSTとWANTを整理していくと、自分たちにとっての優先順位が自ずと見えてくるでしょう。
ちなみに筆者はMUSTが「山が見渡せる」「自然環境が美しい」「積雪量が多くない」「賃貸物件がある」「ある程度便利に暮らせる人口規模」、WANTが「大阪から車で5時間以内の距離」「移住支援施策がある」としました。
ちなみに、筆者自身はリモートで働く場所を選ばないこと、夫も公務員であるため、該当自治体の試験に受かれば働き口はあることから、就労に関しては条件を設定しませんでした。
4. 居住地から情報収集
移住の条件やめざしたい生活スタイルが定まってきたら、移住先候補をいくつか考えてみましょう。現在はインターネットに膨大な情報があるので、今住んでいる場所からでも情報収集をスムーズに行うことができます。
移住を積極的に受け入れている自治体は、専用ポータルページや窓口があることも多く、担当職員にオンラインで相談できるところも増えてきました。
また、定期的に開催されている「移住定住フェア」などのイベントでは、全国の様々な自治体が出展し、直接話を聞くこともできます。自治体が各地域の魅力をアピールしており、比較しながら回ることができるので、気になるブースがあれば覗いてみましょう。
移住経験者のブログやSNSもおすすめです。移住のメリットもデメリットも体感している先輩移住者の生の声を聞くことができるので参考になります。
情報収集はやみくもに行うのではなく、3で設定した条件を踏まえながらどこの地域が移住の目的や実現したい暮らしに近づけそうかを検討します。
5. 移住を体験する
情報収集ができ、移住先候補が絞れたら、移住を体験してみましょう!「移住を体験」と聞くと少し不思議な感じがしますが、百聞は一見にしかずで、その土地の暮らしを体験することは意思決定する上で大変重要です。
旅行で行ったことがある土地であっても、旅行者の目線と生活者の視点は全く違うので、「ここで暮らす」ことをイメージしながら生活します。現在は多くの自治体で「お試し移住」や「移住体験」を受け入れており、無料〜格安で住宅を利用することができます。
体験期間も、2〜3日の短期間、1週間〜1ヶ月程度の中期間、半年以上の長期間など様々です。その土地が自分たちの生活スタイルに合うかどうかはわからないため、まずは1週間程度体験してみると良いでしょう。
移住体験中に充実したプログラムを用意している自治体もあります。先輩移住者との交流や農業体験ができたり、物件の視察ツアーに参加したり、役場の人たちと地域を回りながら色々と話を聞くことができたりと、現地でしか得られない情報をここで集めておきます。
子どもがいる場合は、保育園や学校の様子を見学し、待機児童の有無や子どもが馴染めるかどうかを確認しておくと良いです。
地域によっては小学校・中学校までは通えても、高校以降はほとんど選択肢がない、という場合もあるので、先を見越したプランを立てておきましょう。
気候や自然環境も体感してみないとわかりません。「昼間は意外と暑いけど、朝晩は長袖が必要なくらいだな」「毎日この山を見られるなんて幸せ!」「虫がこんなにいるのは耐えられるかな・・・」などポジティブ・ネガティブどちらの印象も大切な気づきです。
体験は一度で終わらず、季節を変えて行ってみることをおすすめします。筆者は長野県伊那市が候補地ですが、快適な夏だけでなく冬の厳しさを知るために、季節を変えて複数回訪れました。
筆者は寒さに弱く、大阪の冬でも毎年震えていますが、現地では家は二重窓などで防寒、また電車・バス移動をしないためあまり外を歩くことがなく、車までの数10秒を我慢すれば良いため、意外と耐えられそうだと考えました。
また現地で生活をしていると、少し買い物に行くにも車が必須であること、スーパーや病院、役場、学校が集中しているエリア、ゴミの捨て方のルールや住民の雰囲気、地域行事なども自ずと知ることができます。
筆者はペーパードライバーなので、体験期間中は夫がいないと何もできない不便さを実感し、移住前に運転技術の習得は必須だと改めて実感しました。
6. 仕事や家を探す
移住をしたいと思える地域が固まったら、移住に向けた最後の準備です。「職」と「住まい」を探します。この2つは暮らしの「土台」となる部分なので慎重に検討しましょう。
まず仕事ですが、大きく4つのパターンがあります。
- 移住先の企業・自治体で働く
- その地域特有の産業に従事する
- 地域おこし協力隊として活動する
- リモートワークで働く
詳しく見ていきましょう。
移住先の企業・自治体で働く
「向こうに移り住んだらゆっくり探そう」という考えは現実的ではありません。地方は都会と違ってそもそも仕事が少ないですし、その中で自分がやりたいと思える仕事に出会えるのか、さらに自分を雇いたいという雇用先があるのか、などハードルはいくつもあります。
企業への就職先を探す方法としては、ハローワークや民間の転職サイトの活用、またUIターン専門の転職エージェントに相談する方法があります。一方、移住先の自治体で正規職員として働きたい場合は、その地域の公務員試験に合格する必要があるので、念入りな準備が必要です。
その地域特有の産業に従事する
農業や林業、水産業、観光業などその地域の魅力を活かした産業に携わりたい、という人もいるでしょう。移住者への就農・就漁支援を積極的に行っている自治体もあるので、担当者に聞いてみることをおすすめします。
また、必要最低限の収入を得つつ、農業を営みながら半自給自足の生活を選択する人もいます。
地域おこし協力隊として活動する
地域おこし協力隊とは、人口減少や高齢化が進行する地方に住みながら、地場産品の開発や販売、地域の魅力発信、農林水産業への従事、住民支援や移住支援などを行い、地域振興のために活動するプログラムです。
地方自治体によって活動内容や条件及び待遇は異なりますが、報奨金の相場は概ね166,000円〜225,000円に設定されています。
任期は1年〜3年ですが、活動修了後もその地域に定住することが推奨されています。
家賃や車両費などの活動経費は自治体が負担してくれるところも多く、職と住まいが一度に揃うのは、移住の大きな後押しとなるでしょう。何より、任務を通じて地域に深く関わりながら生活するため、地域住民との交流も多く、コミュニティに馴染みやすいのは大きな魅力だといえます。
リモートワークで働く
今の仕事をリモートワークで継続できるなら、新たに仕事を探す必要もなく、移住に伴う変化も小さくなるので、スムーズに準備が進みます。また、給与面でも都会の方が地方より比較的高い傾向にあることもメリットです。
一方、デメリットも3つあります。1つは、出社が求められる場合に移動コスト(時間・費用)が大きくなってしまうこと。いくらリモートワークといえど、出社が必要なタイミングはあるので、その際の負担は大きくなります。
2つめに、他の社員との直接的なコミュニケーションが不足してしまいがちであること。メンバーで話し合いながら新しい企画を立案するときや何か問題が生じたときなど、直接会ってコミュニケーションすればスムーズに進むことが多いですが、それが簡単にはできなくなってしまう恐れがあります。
3つめとして、移住先地域との関係がどうしても希薄になってしまう可能性が高いということ。仕事は人と人とをつないでくれるものでもあるため、地域外に仕事を持つのであれば、プライベートな時間で積極的にコミュニティに関わっていくことがおすすめです。
1〜4のいずれも、移住・就労条件によって補助金が得られる場合があるので、自治体への相談はこまめに行うようにしましょう。
田舎暮らしをするなら庭や畑付きの広い家に住みたい!そんな夢が膨らんでいる人も多いでしょう。
ただ、都会に比べると土地が安いし、新築で建ててしまおうか・・・という考えは少々危険です。確かに移住先で新築したり、中古物件を買ったりすると自治体の支援が受けられることも多く、魅力的に映りますが、まずは賃貸で暮らすことを強くおすすめします。
移住体験をしたといっても、その土地の「住民」になって初めて見えてくる世界はあります。移住先のコミュニティや気候に馴染めるのか、自分自身は順応できても家族がそこでの生活に満足するのか、仕事はうまくいくのか、など不確定要素が多いのです。
少なくとも一年間は賃貸で様子を見ておくといいでしょう。賃貸物件を探すには、地元の不動産屋さんに相談する、自治体が運営する「空き家バンク」に登録し、賃貸物件の空きが出ないかを随時確認する、などの方法があります。
7. 移住を実行する
いよいよ移住するときがやってきました!移住を考え始めた日から、多くの準備を重ねてきたことでしょう。ただし、移住自体が目的(ゴール)になってしまってはいけません。
ステップ1で考えた「移住の目的は何か?」「ここで実現したい暮らしはどんなものか?」という初心に立ち返り、ここから新たな生活をスタートさせるのです。
これまで暮らしてきた都会とは、文化や風習、住民の雰囲気も異なるため、戸惑うことや驚くこともあるかもしれません。その違いを笑って受け止められるようなゆとりや、地域コミュニティと対話を重ねていくことが大切です。
あまり意気込みすぎず、「馴染むための工夫や努力は最大限するけれど、どうしても生活がうまくいかなければ帰ったらいい」というぐらいのおおらかな気持ちでいましょう。
まとめ:家族移住のポイントは?
自分一人で身軽に移住する単身移住とは異なり、家族移住を成功させるポイントが4点あります。
- 家族全員の理解や納得を得られた上で移住する(強行突破は絶対NG)
- 得られる収入や補助金と生活コストを計算しておく
- 習い事や高等教育の選択肢が減少する可能性を見越しておく
- 地域に積極的に関わり、「ちがい」を楽しむ気持ちをもつ
日本にはまだまだ魅力あふれる土地がたくさんあります。「ここで暮らしたい」そう思えるところで、大事な家族とともに時間を過ごせることの価値は非常に大きいです。
移住は、自分だけでなく家族の人生をも変えるビッグイベントなので、良い面だけではなく、マイナスになりうる面も良く吟味して検討し、家族とすり合わせながら準備を進めていきましょう。
人生は一度きりで、時間には限りがあります。残りの人生をどんな風に過ごしたいのか、何を大切に生きたいのかを考え、その目的に移住が合致するならば、一緒に一歩を踏み出してみませんか?