コロナ禍を経験したことで、農業をやってみたいと考える人が増えています。
そんな方々の中には、田舎暮らしや野菜を育てた経験はほとんどないという人も多いでしょう。
また「就農」と一口に言っても、道は一つではないので悩むのは当然かもしれません。
具体的には、将来的に農業法人で働くという道もあれば、独立して農家を経営する道もあります。
どんな作物を育てるか、どれくらいの規模でやるかなどの希望も人により違うでしょう。
移住を検討または希望する自治体で、就農について気軽に相談出来たり技術を学べたりできれば、移住後の生活設計もイメージしやすくなりますよね。
自治体の支援には特色があり、自然栽培や有機農業を学ぶのに適している場所もあれば、半農半Xの暮らしを望む人を受け入れている所、また費用面で充実している所のほか、地域とのつながりを早いうちから構築しやすい自治体もあります。
この記事では、新規就農におすすめの自治体と、農業体験や塾などの学びの場、移住後の生活支援を併せてご紹介していきます。
1.島根県-「半農半X」という生き方を応援-
画像引用元:公益財団法人 しまね農業振興公社HP内 動画より
出雲大社があることで有名なご縁の国、島根県。
島根県では、「半農半X」という働き方を選ぶ新規就農者でも、充実した就農支援を受けることができます。
「半農半X」とは、近年注目され続けているライフスタイルの一つです。
京都府綾部市で暮らす塩見直紀さんが提唱し、関連書籍も販売されています。
「半農半X」とは、持続可能な農業を営みながら天職として別の仕事も持って生計を立て、自分らしく世の中に貢献していくことを目指す生き方のこと。
実際に移住者の中には、農閑期には酒造会社で働き、自ら作った酒米を使ってお酒を仕込む「半農半蔵人」もいます。
県の支援策は手厚く、就農前の研修中と、営農開始直後に最長で1年ずつ、月12万円の必要経費等の助成が受けることが可能。
また、営農するにあたって必要な施設設備費(上限100万円)の補助も受けることができます。
就農前に農業技術を学ぶには、果樹や野菜などの先輩農家での研修のほか、島根県立農林大学校の短期養成コースで学ぶことも可能です。
参考:
・短期養成コースの紹介(トップ / しごと・産業 / 農林業 / 地方機関 / 農林大学校 / 短期養成コース(1年制))|島根県
・島根での農業デビューを支援します!|しまね就農支援サイト
2.埼玉県小川町-有機農業の先駆者が開いた野菜塾-
画像引用元:霜里学校HP
次にご紹介するのは、有機農業の草分け的存在である埼玉県小川町です。
多くの農家が牛を飼うなど有畜複合の循環型で、科学肥料や農薬に頼らない生産を行っています。
先駆者である故・金子美登氏の元で学んだのち、地域に根付いた人達が多く居る小川町。
生産グループを作って、それぞれの独自性を尊重しながら販売する時などに協力しているそうです。
また今では珍しい、農家の自家採種や種苗の交換会を地域ぐるみで続けていることも特徴。
初心者の人が有機農業を学ぶには、しもざと有機野菜塾がおすすめです。
金子氏の教えを受け継ぐ内容で、年12回の講義を36,000円で受講可能。
また、小川町がある埼玉県は「農ある暮らし」を推進しており、新規就農だけでなく6次産業化を目指す人や、余暇に農を楽しみたい人まで幅広い相談内容に対応しています。
本気で就農したい人は、埼玉県農業大学校や、さらに高みを目指して学ぶ人向けの「明日の担い手育成塾」を紹介してくれるので、いろいろ相談してみましょう。
参考:
・小川町有機農業生産グループ – 小川町有機農業生産グループ紹介サイト
・しもざと有機野菜塾 – 霜里学校
・埼玉で農ある暮らし|小川町|移住情報ウェブサイト
3.大分県臼杵市-働きながら学べる地域おこし協力隊‐
画像引用元:大分県臼杵市公式HP
続いてご紹介するのは、九州にある「有機の里」大分県臼杵市です。
ここでは「有機農業隊員」として働きながら学べる、地域おこし協力隊の募集が毎年行われています。
任期は最長3年で、研修を受けながら作物を栽培し、実証圃での模擬営農が経験できるのが嬉しいところ。
ほかにも、情報発信や集荷や配送、販路の拡大を考えたりと実践的な内容を身につけることが可能です。
満20歳から満46歳までと年齢制限はあるものの、月額166,000円(令和4年度実績)の報酬と社会保険などの福利厚生、市による家賃の一部負担や自家用車の燃料費負担まで受けられるので、営農前の基盤づくりにはもってこいですね。
また、臼杵市は作物を育てる際に欠かせない「堆肥」にこだわり、「臼杵市土づくりセンター」で独自に完熟堆肥を作っています。
この完熟堆肥を使い、科学肥料を使用せずに栽培した野菜が「ほんまもん農産物」。
市長が認証し、市内各地で販売されています。
参考:地域おこし協力隊員を募集します!(有機農業隊員)|臼杵市役所HP
4.石川県羽咋市-営農段階まで手厚い自然栽培新規就農者支援-
画像引用元:のと里山自然栽培|JAはくい
JAと市が連携し、自然栽培農家を応援している石川県羽咋市の取り組みも魅力的です。
自然栽培とは、農薬や科学肥料のほか鶏糞などの有機肥料も使わない農法のことをいいます。
太陽と水、土の中の微生物の力を活かして、旨みのある野菜を作ることができるのです。
ここでは新規就農を目指す人に、国の新規就農総合支援事業から支給される金額の2割が2年間助成されます。
また定住後、市内の空き家に住めば、家賃の半分を助成してくれるのもありがたいところ。
まず自然栽培の基礎を学びたい人は、「のと里山農業塾」へ通ってみましょう。
この塾は『奇跡のりんご』で有名な木村秋則さんの講演会が行われた2010年に始まり、全国から人が集まる人気の塾です。
遠方から通う人にも空き家が受け入れ施設として用意されており、実際に農業塾に通ったのち東京から単身移住し自然栽培農家になった女性もいるほど。
令和2年度からは、助成制度も拡充されています。
自然栽培に限らず慣行農家も対象なので、まずは相談してみてはいかがでしょうか。
参考:
・羽咋市自然栽培新規就農者支援|羽咋市公式HP
・のと里山自然栽培|JAはくい
5.和歌山県那智勝浦町 色川地区-昔ながらの農的暮らし―
画像引用元:ふるさと色川
最後にご紹介するのは、和歌山県那智勝浦町、色川地区です。
この地域は、約40年以上前から移住者を受け入れてきた実績があります。
自給自足や有機農業などに関心がある移住希望者に人気で、今では住民の半数が移住者という珍しい過疎地です。
古き良き山村の暮らしと、美しい自然が残るのが魅力の一つ。
ただし、山村文化に多少の不便さはつきものです。
それさえ愉しむくらいの気持ちがあるならば、一度色川地区を訪れてみてはいかがでしょうか。
まずは連絡をして希望日程を伝え、2泊3日で色川暮らしを体験。
次はさらに踏みこんで、4泊5日の定住訪問も可能です。
この時に、1日3家族、5日間で計15家族の地域のお宅を訪問し、実際にお話を聞くことができます。
最後は「籠ふるさと塾」という受け入れ施設を拠点に、最長1年間、仮の定住をしながら、住む家を探すのも手です。
また農業をするには、地域の人たちとつながりを持ち、先輩に教えてもらいながら自分なりの働き方を探していくことが大切ですが、色川地区では相談しやすい環境が整っています。
まとめ
農業に興味を持ち、「やってみたい」と思った時、何から始めればいいか悩みますよね。
そんな時、力になってくれるのが、自治体の就農相談窓口です。
どんな農法を学び、どんな暮らしがしたいのか、方向性を明確にしていくためにもまずは相談してみましょう。
お近くの就農相談窓口や就農フェアを訪れてみるのもいいかもしれません。
移住相談も併せて出来る場合も多く、自治体の多くはオンライン相談も可能です。
自治体の支援の内容や方向性を知って、ご自身の希望にあった移住先探しの参考にしてみましょう。
自治体の支援と組み合わせれば、農業体験やインターンシップ、大学や農業塾で知識を蓄える際などに、かかる費用を軽減することも可能です。
本格的に農業大学校や、求職者支援訓練制度などの公的な制度を使って学ぶ際にも、自治体との繋がりがあれば研修先や就職先が探しやすくなるでしょう。
また、自給自足や半農半Xなど、農業に関わりながらも、生き方は多様なので、自分に合った「就農」を探すことも可能です。